参照元: 原状回復で揉めたときは - 鎌倉の弁護士 鎌倉総合法律事務所
Q. 2年間借りていたマンションを退去することになりました。綺麗に使うように心がけていたので、壁紙やフローリングに目立った汚れもありません。しかし、契約書には、「退去時には壁紙とフローリングの張替えのために10万円を請求する」という特約があったようです。この特約について説明を受けた記憶はなく、また客観的に見ても状態は綺麗で、張替の必要はないと思います。それでもやはり、10万円を支払う必要があるのでしょうか?
A. 原則として、建物や設備の経年変化・通常消耗の原状回復義務は、貸主にあります。その額についても、契約中の家賃に含まれている、という考え方です。しかし、契約書に原状回復における「特約」がある場合はその限りではありません。ただし、その特約も、消費者契約法第10条後段に違反する内容である場合には、「無効」とされることがあります。
借主は退却時に原状回復の義務を負う
賃貸借契約において、借主は、返還時(退去時)に、「原状回復」の義務を負います。
では、原状回復とは何か。これは、国交省のガイドラインによって、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
よって、借主が一般的にその建物・設備を使用することで生じる経年変化、通常消耗については、借主の「故意」によるものではないので、原状回復の義務がありません。経年変化や通常消耗の原状回復、その修繕費用は、原則、貸主が負担すべき、と考えられています。
つまり、原状回復について、事前に特別な規約がない場合には、たとえばタバコの煙による壁紙の黄ばみなどの「故意過失」などを除いて、その修繕費は貸主の負担となるのです。
「特約」は無効か否か
しかし、ご相談のケースでは、あらかじめ結んだ賃貸借契約の中に、「退去時には壁紙とフローリングの張替えのために10万円を請求する」という特約があったとのこと。この場合はどうなるのでしょうか?
――これは、その特約が、消費者契約法10条後段に定められた部分に違反していないかどうかによります。すなわち、「借主に一方的に不利な原状回復特約」になっていないかという点です。
今回の場合は、一切の理由を問わずに壁紙・フローリングの張替えを全額、借主の負担とすることに合理性が認められません。また、特約の存在について、契約時に説明がなかったこと、借主がそんな特約があるとは知らせずに契約を結んでいたことなど、貸主に落ち度があると思われます。
そのため、この特約は、「借主に一方的に不利な原状回復特約」、消費者契約法10条後段に違反するものであるとして、無効である、と主張する可能性が考えられます。