Q. 売掛金を回収できないときには、どのような方法で回収すればいいのでしょうか?また回収が可能とされる期間、時効などがあるのかについても、教えていただきたいです。
A. 売掛金とは何か、という部分からまず確認します。
売掛金とは、得意先に商品や製品を掛売りした場合の債権のことです。即金でなく、一定の期間が過ぎた後で受け取る代金のことを、売掛金と言います。
取引先に頻々と商品を販売する場合には、その度にお金を受け取るよりも、後からまとめて代金を受け取った方が請求書を作る手間なども省け、効率的ですが、まれに売掛金が回収できないことがあります。
たとえば、取引先の倒産や夜逃げ…などの理由によって売掛金が回収できないかもしれない場合は、どのように対処すべきなのでしょうか。次の流れで、確認していきましょう。
1.債権の特定
売掛金を回収したい場合には、第一に、債権を特定しなければなりません。
債権の種類、そして契約した日時、金額、その支払日、商品の納品日を特定します。とりわけ注意して見なければならないのは、「継続的取引」です。
どの取引に関して未払いになっているのか、すなわち売掛債権が残っているのかを明らかにしなければなりません。
そして、その債権の存在を裏付けする資料も必要です。具体的には契約書、または注文書や注文請書、納品書、商品受領書、伝票、請求書など。こういった準備を万事整えた上で債務者に対し、請求を行います。
債務者に資産がない、つまり任意の支払いが困難という場合には、強制執行で支払わせることが可能かも見極めなければなりません。不動産登記簿謄本、商業登記簿謄本などを見て、抵当権の設定状況を弁護士に調べてもらいましょう。
2.債務者が財産隠しなどを行った場合には…?
さて、売掛金の回収に入ろうと乗り出したところ、債務者がお金を払わなくて済むように持っているお金を隠したり、わざと使ってしまったりすることがあります。そういった姑息な手段に対処するためには、債務者の財産を「仮差押」しなければなりません。
仮差押の申立ては、回収すべき金銭債権の裁判を取り扱う簡易裁判所、地方裁判所、あるいは仮差押対象物の所在する地方裁判所で行います。仮差押は債務者の財産隠しなどを防ぎ、真摯に弁済させる効果がある一方で、その申立てに際しては高額な保証金を用意しなければならないという難しさもあります。
メリットよりもデメリットの方が大きい可能性もあるので、弁護士に相談して仮差押すべきかどうかを見極めましょう。
3.民事調停
売掛金を回収する上で、あえて訴訟を起こすほどの状況でもなく、相手方も交渉に応じそうな場合には、「民事調停」により、まだ平和的な解決が可能です。
調停とは、言いかえれば「話し合い」ですが、調停調書は判決と同様の効果があり、これに相手が従わない場合にはただちに強制執行が可能です。訴訟と比べると、いろいろな意味で手続きも楽です。
しかし、もし相手方が裁判所の呼び出しに対して応じない場合には、調停が成立しないこともあります。相手の対応次第というところなので、逃げられた場合は難しいでしょう。
4.支払い督促を行う
社内で作成して相手方に送付する督促状とは別に、自分で債権回収を行う際には、こちら側(債権者側)のみの言い分に基づいて、簡易裁判所の書記官が支払いを命じる「支払督促」の方法を取ることも可能です。
これは非常に簡易な手続きで、申立書の書類審査があるだけ。証拠を揃える必要も、出頭の必要もありません。
「支払督促」はしかし、その送達から二週間以内に債務者が異議申し立てを行った場合には通常の裁判に移ります。また、送達後二週間以内に債務者が異議を唱えなかった場合には、それから30日以内に仮執行宣言の申立てをしなければなりません。申立てをしなかった場合には、支払い督促は失効します。
仮執行宣言の申立てを行った場合には、すぐに強制執行が可能です。しかし、これが利用できる債権は限られており、金銭その他の代替物と有価証券の給付を請求するもののみ。
5.少額訴訟を申立てる
問題の売掛金が少額の場合には、「少額訴訟」を利用することもできます。
平成10年から新たに認められたこの「少額訴訟」では、簡単で、迅速に、しかも安い費用で、60万円以下の金銭の支払いを求めることができます。裁判期日は、原則1日。その場で判決が下されます。
非常に簡単な手続きで、しかも勝訴となった場合には必ず仮執行宣言がつくので、すぐに強制執行ができるというメリットもあるのですが、対象債権が限られ、相手方の所在が不明の場合は公示送達で手続きできないことなど、すべての売掛金の不払い問題に対応できるわけではありません。もし相手がその気になれば、通常裁判へと移行することも…。
まとめ
売掛金を回収するためには、まず、債権を特定すること。その上で――
- 民事調停
- 支払督促
- 少額提訴
これらのいずれかの方法を取ることになります。状況によってどういった対応をすべきかは異なるので、仮差押の件なども合わせ、まずは弁護士に相談して始めていきましょう。
最後に、売掛金の返済義務消滅までの期間について触れておきます。これを過ぎると消滅時効が成立し、原則としては売掛金が回収できない――のですが、それも弁護士に相談すればあらゆる方法で時効を中断することができるので、そのあたりも話してみてください。
- 1年で消滅するもの…宿泊料、運送費、飲食代金
- 2年で消滅するもの…月謝/教材費 製造業/卸売業/小売業の売掛金
- 3年で消滅するもの…診療費、工事代金、自動車修理費、建築代金/設計費
- 5年で消滅するもの…上記の項目以外の売掛金